鑑定について
鑑定書もいろいろ
鑑定書とは、ヴァイオリンの出自、つまり何時何処で誰によって製作されたのか、また特徴や来歴などを記載した一種の証明書のようなものですが、すべてを鵜呑みには出来ません。経験の浅いディーラーによる鑑定書と経験豊富で信用のあるディーラーによる鑑定書ではその信頼性は全く違います。
鑑定書といえば欧州のディーラーが書いたものが珍重される傾向が強いですが、大切なのは信頼に値するかどうかです。本来であれば販売した当人が保証すべきです。日本弦楽器では、鑑定書はもちろんですが、納品書も請求書も発行しますので、それも鑑定書の一部となります。例えば、当店で購入した楽器はその購入金額で保険にも加入できます。それは事故率の低さやお店の姿勢、お客様の性質や信頼度、契約高・契約本数、アフターフォローや事故時の対応能力など、当社と保険会社との信頼関係の証でもあります。すべてのディーラーにそういうことが可能なわけではなく、長年信用と実績を積み重ねてきたからこそできることなのです。
鑑定は一瞬
ヴァイオリンを売却するために来店されたお客様に対して、ものの数分くらいで買取金額を提示するわけですが、例えば2000万円、などと鑑定額を提示する場合、計算高く実際の評価額よりも少なめの金額を提示しているという訳ではないのです。2000万円という金額ならばこのヴァイオリンに許してもらえるなどと自問自答しているようなところがあります。それは勿論お客様に対してもですが、そのヴァイオリン自身に対していつもそんな気持ちになるのです。
買い取りは縁切り
ヴァイオリンを買っていただくことはお客様とヴァイオリンの縁を結ぶ縁結びと言えますが、買取金額を提示するということは閻魔大王のように厳粛にお客様とヴァイオリンの縁を断ち切る縁切りの儀式みたいなところがあり、それにはものすごいパワーを必要とします。買取りのお客様と応対する時はこちらも相当のパワーがないと金額なんてとても言えません。現金もそうです。相当なパワーのひとつですから予め用意しておくことも怠りません。お客様に信頼され、かつ説得できるだけの感覚を備えておくことも必要です。これほど多くのヴァイオリンを買い取っている業者は他にはないかもしれません。
鑑定のポイント
楽器の鑑定能力を身につけるには相当な経験が必要です。その過程では、賞賛されたり、また大きな失敗を繰り返しながら少しずつ身につけてゆくものです。例えば、典型的な特徴を有している楽器、典型的なアマティ、典型的なストラド、はたまた典型的なプレッセンダ等々、それらの楽器の典型的な特徴くらいわからなければ他の判断は望めません。しかしその能力を身につけるまでには相当の時間と経験が必要です。楽器のどこを観るというよりも、それが判るレベルまで自らを高め、そしてより多くの最高級楽器を売買して経験を積み重ねることが鑑定眼をつけるために一番重要なことです。プロならば誰もがわかるような楽器をわかるようになるというあたりまえのことが鑑定にとって一番大切なポイントです。
逆に言えば簡単に楽器が判るようなら我々専門家は必要ないでしょう。同じ音のする完全なコピー楽器も簡単に作れてしまうかもしれません。しかし現実はそうではありません。事実このような能力を身につけることはものすごく難しく、それこそ何十年という経験とお金、そして運と偶然とが必要な世界です。だからこそこのようなある種の特殊能力を身につけた鑑定家だけが信頼に値するのだと思います。